会員便り

2017年04月23日 想い出あの日あの時

新作能の公演(富岡崇子)

3年前の4月にS37高・S41大卒の同期会41会は、小鼓の家元大倉源次郎さん(S56文)のご紹介により、銕仙会能楽研究所の能舞台に伺い、観世銕之丞さんの高砂の舞を見せていただく機会がありました。それから41会メンバーの中には能のファンになり、能を見に行く人が増えました。私もその一人で、昨年11月14日新作能の公演があるというので見に行きました。シテ(主役を演じる人)は銕之丞さん、小鼓大倉源次郎さんです。

その日は開場時間の30分前位に到着したのですが、ロビーにも入れてもらえず、外で待たされました。それにスーツの男達が国立の能楽堂の前の庭を10人くらいで行ったり来たり、また別の20人くらいが行ったり来たりしています。時間になりやっと入場でき、第1作は「清経」という源氏に破れた平家の武将の話でした。それが終わると「第2作の前に天皇皇后両陛下がご来場になります」というアナウンスです。びっくりしました。私達観客にはその時まで内密にしてあったのですが、警視庁、宮内庁、国立能楽堂関係者等は警備がたいへんだったようです。それまで気がつかなかったのですが、カウンターのような囲いのある正面の一番後の席に、説明役の作者・前ポーランド駐日大使のヤドヴィガ・ロドヴィッチさん(女性)や警備の人達に囲まれて、両陛下が入ってこられました。私達は拍手でお迎えしました。

新作能の話の内容は、アウシュヴィッツで犠牲となった多くの魂と東日本大震災で亡くなったたくさんの魂を鎮めるというもので、ここに皇后陛下のお歌「帰り来るを立ちて待てるに季のなく岸という文字を歳時記に見ず」と天皇陛下のお歌「津波来し時の岸辺は如何なりしと見下ろす海は青く静まる」が謡い込まれているものでした。

大震災の後、両陛下が何度も被災地を訪問され、生きている人にはお見舞いを、亡くなった人には鎮魂の祈りをされた、まさにそれをお能にしたものでした。退場されるとき、私達は拍手でお送りしました。象徴天皇の役割を充分すぎるほど果たされていると実感した能の鑑賞でした。

2017年3月8日書く

(S41文 富岡崇子)