会員便り

2019年11月18日 オノマトペって・・・

「オノマトペって、こうなんよ~」 第1回 「雨の音は、実は雨の音ではないよ」

はじめまして

「台風15号の傷跡:千葉県君津市で倒れた鉄塔、10万軒が停電、携帯も圏外に」

今年は何度も台風に見舞われ、私が住む所も15号のおかげで、1日の断水、1週間の停電と携帯の圏外、1ヶ月もの固定電話の断線を経験しました。そんなこともあり、このメルマガ発信も遅れ遅れになりました。そろそろと始めさせていただきます。

オノマトペって、擬声語という意味のフランス語なんですが、フランス語の擬声語って、漫画の中に出てくる文字で、目で見る音なんですね。日本語のように耳で通じる言葉としての擬声語だったり、擬音語ではないんですよ。日本語のオノマトペは、世界でもかなり独特な言葉なのです。

さて、タイトルは苦しいダジャレです。決して「甲南用」なんていう高飛車な話ではなくて、最近、ご縁があって、キプロスの昔話絵本の和訳を始めたところ、日本語の「オノマトペ」の妙味を知りました。

そこで、第1回は、悩まされた台風にちなんで、「雨の音は、実は雨の音ではないよ」というお話です。
雨の音というと「ザーザー」とか「しとしと」というのが、一般的ですが、この音は、厳密にいうと、実は雨自体の音ではありません。「ザーザー」は、雨粒が屋根や道に当たった音であったり、それが風に煽られた木に当たる音であったりします。「しとしと」は、葉っぱに当たった雨が落ちる音であったり、集まった雨粒が軒先から静かに落ちる音であったり、そういういくつかの音の重なったものであったりします。

私は今、周りが林で、お隣のお家まで100m近く離れているというかなり山の中に住んでいまして、雨が降り出すと、鳥や虫やその他の生き物たちのさざめく音が、いったん消えてしまいます。風音は聞こえますが、雨が景色を打ち付ける音以外は聞こえません。生き物たちは、雨が降り出すと、息をひそめるのです。でも、雨があがりそうになってくると、カエルが鳴き始め、鳥や獣が体についた雨粒を落とす羽ばたきや身震いのざわめきが空気を伝わってきます。
その点、ヒトは、雨の中、傘をさして出ていくわけです。

佐野洋子さん作の「おじさんのかさ」という絵本をご存知でしょうか。
傘が大好きすぎて、雨の日に傘をささないおじさんのお話ですが、
   あめが ふったら ポンポロロン
   あめが ふったら ピッチャンチャン
傘を雨粒が「ポンポロロン」と落ちていき、水たまりを踏むと「ピッチャンチャン」としぶきがあがります。子ども達が、雨の日を楽しみます。
「ああ、雨の日は、なんて楽しいんだろう」という気持ちを、ついに傘をさすことで、おじさんも共有することができるのです。これも、雨自体ではないけれど、そこから派生する音なわけです。

絵本作家は、オノマトペを、それはそれは魅力的に使いこなされる方達なので、これからも、ご紹介させていただきたいと思っていますが、昔ばなしの中にも、面白い表現があります。

「三枚のお札」というお話は、お寺の小僧さんが栗を拾っているうちに山姥(ばんば)に誘われて、その家に泊まってしまうというお話です。夜中に目を覚ますと、雨だれが、
   タンツク タンツク こんぞうよ
   起きて ばんばの面(つうら)見れ
   タンツク タンツク こんぞうよ
   起きて ばんばの面見れ
というので、小僧さんが驚いて起きて、ばんばの顔を見ると、さっきまで優しいばあさまの顔だったのに、今は、口が耳まで裂けて・・・といった、かなり緊迫した場面に入っていきます。絶妙な雨だれの音と、撥音便(跳ねるようなンの音)が重なった言い回しは、このお話のクライマックスを、子どもたちに怖いけれど聞かせてしまう。という上手さが感じられます。この後、小僧さんが逃げ始め、切り札を三枚切れるという展開が面白いと言われていますが、この雨だれのシーンこそ、耳で聞くお話、語りの醍醐味を感じさせるところです。

さて、今日も雨音の聞こえる中でこの原稿を書いていますが、皆様の周りで降っている雨音は、どんな音でしょうか。
激しい台風の雨音は恐怖が募りますが、静かな雨音は、心が鎮まりますね。
                                                          (入江愛子 S58理)

引用文献:「おじさんのかさ」 佐野洋子作 講談社
      「三枚のお札」日本の昔話「おはなしのろうそく5」より、東京子ども図書館編