会員便り

2020年12月07日 オノマトペって・・・

「オノマトペって、こうなんよ〜」 第2回 「ジングルベルは、神来る鈴?」

1963年、3歳の筆者(中央)と姉、アメリカ、サンタクロースのいる館

 オノマトペとは、フランス語源で『音を表す言葉』をいうものですが、日本語は世界でも、オノマトペが特に多い言語の一つと言われています。

「それは、なぜでしょう?」
 いろんな角度から解き明かしていきましょうね。では、そろそろと始めましょうか。

 さて、もうすぐクリスマスですね。街で流れているクリスマスソングに、
♫ジングルベール、ジングルベール、鈴が鳴る〜 きょうは、楽しいクリスマス〜♫
というのがありますが、このjingle という英語の和訳は「金属音の小さなチリンチリンという音」をいうそうです。英語のオノマトペですね。ですので、チリンチリンと鳴っている鈴の音、といっている歌詞となるはずです。日本語の歌になる時、語呂の良いところで、そのままカタカナ英語が入っています。が、日本語ならトナカイが首につけている鈴の音(ね)は、
「シャンシャンシャンシャン」
という風にたくさんの鈴が鳴っている音として表現することが多いと思います。最初にjingleという言葉を和訳した人が鈴の音を、単独の呼び鈴と思ったのかもしれません。当時の日本語では『ヂングル』だから
「チリンチリン」だというのも頷けます。
なんとなく、jingle という音のボリューム感に欠けますよね。
 でも、普通の鈴の音(ね)といえば、
「リンリン」
という、秋の夜に庭で鳴いている鈴虫の声と似ています。鈴虫の声は、
「リーンリーン」
ですよね。鈴を振るような美しい声なので、鈴虫とよばれている虫の声です。
 『虫の声』と言われると、夏になれば蝉、秋の夕方になれば鈴虫、蟋蟀(コオロギ)などさまざまな虫の鳴き声が存在します。実は、これも日本人特有です。
 外国人が『声』として認識しているものは、鳥や飼っている動物、猛獣などの鳴き声までです。ましてや、先に上げた、蝉しぐれ、秋に鳴く虫の声については、外国人(ポリネシア人を除く)は、音、雑音または、聞こえないものとしてしまうのです。
 私がこの事に気づいたのは、6〜12歳までアメリカで育った姉の言葉からです。
「なぜ、日本人は、虫の声っていうの?あれは、虫の音(おと)、音(ね)のほうが正確であって、声じゃないでしょう?」
 それを聞いた時の私の顔をご想像ください。いわゆる、唖然としました。私は、
「誰かに話す時に『虫の声がした』とはいうけれど、『虫の音(ね)がした』はないかな。『虫の音が(ね)が聞こえた』はあるかも。でも、『虫の音(おと)?』は、ないない。」
と答えると、姉は、
「虫は音を出す場所が、喉(のど)じゃないでしょう?羽とか、体の外にそういう器官があって、そこで音を出す。体の中からの声ではなくて、外で音を出しているの。だから、虫の絵には、バイオリンや楽器をもたせて音楽を奏でている絵になっているでしょう?英語では、声の時はsing、音の時はplay とか違う言葉なのに、日本人が『虫の声』というのは、おかしな表現なのよね。日本の古典のほうが『虫の音(ね)』といっているんじゃない?」
と首をかしげている。
「いやいやいや、源氏物語では、普通に『虫の声』を聞き比べているから。芭蕉だって、
『しずけさや 岩にしみいる 蝉の声』
って、うたっているよね」
私にとっては、おかしなことを言っているのは姉の方なのだけれど、この認識の違いがどういうことなのかを知ったのは、かなり後になります。
 
 下記の記事が、答えを出してくれました。
「なぜ日本人には虫の「声」が聞こえ、外国人には聞こえないのか?/ 2017年1月10日 20時0分 著者/伊勢雅臣」
https://www.mag2.com/p/news/233784

 この記事によると、「虫の音」に対する脳の処理が、日本人とポリネシア人は外国人と違い、言語を処理する「左脳」で聞いているということなのです。外国人は、笑い声や泣き声、動物の鳴き声、自然の音も含めて、音楽脳である「右脳」で聞いているそうです。そして、虫の声は、多くは雑音として処理され、心地よい音としての認識もされないのです。日本人の風流や風情は、日本語で育たない限り外国人には理解できない部分があるという事がわかります。
 ところで、私の姉は日本人ですが、先の発言により外国人と同じ右脳処理をしていることがわかります。ですので、これは、人種やDNAの違いではなく、育った環境、つまり日本語をいつ獲得したか、によるということです。
 9歳で言語や音楽の耳が完成するという話を聞いたことがあるのですが、6〜12歳まで(小学校時代)をアメリカで育ち英語で教育を受けていた姉には、美しい虫の声は、あくまで雑音に近い『虫の音』です。0〜4歳までアメリカにいた私は、小学校は日本語で教育を受けているので『虫の声』です。9歳までを考えると、ほぼ姉と逆なのですが、教育を含めた日本語の環境が、どんな音を、言語野のある左脳で処理するか、音楽脳である右脳で処理するか、音の聞き分けを決めるのだと考えられます。
 先の文献に書いてありましたが、日本語を母国語とする外国人は『虫の声』と表現するようです。ちなみに、9〜14歳までアメリカにいた兄は『虫の声』と表現すると言っていました。兄は8年間日本語で育ったわけですから、音の聞き分けではぎりぎり日本人ですね。小学校の1,2,3年生あたりが脳の音の聞き分け処理に一番深く関わっている時期なのではないかと推測できます。私は逆に、生まれてから4年間、脳が音を言語と音とに分ける前の期間をアメリカで育ちましたので、日本人が聞き取れない欧米人の発音が聞き取れているようです。
 オノマトペについて、私が特に気になるのは、どの外国人よりもどの日本人よりも、言語脳が多くの音を処理しているせいかもしれません。

 さて、日本語で育った日本人が多くの音を、言語脳で処理していることがわかりました。ですので、どんな音もカタカナにすることができるし、またオノマトペを意味のある別の言葉や漢字に置き換えることができるわけです。
 ジングルベルを「神来る鈴」と当て字にして、そう読ませた最初の人のセンスは、「スゴイ!」の一言に尽きますね。クリスマスはキリスト教の人にとっては、神の子イエスが生まれたわけですから、「神が降りて来る時に鳴る鈴、ジングルベル」ですよね。こんなにうまくハマるのかな、と感心します。

 日本語が、オノマトペを多く持つという医学的?理由がわかったところで、他の言語とも比較しながら、今後も絵本や詩、昔ばなしなどを紹介していきたいと思います。

                                                      入江 愛子 (S58理)

引用文献:「なぜ日本人には虫の「声」が聞こえ、外国人には聞こえないのか?まぐまぐニュース!/ 2017年1月10日 20時0分 著者/伊勢雅臣
 
ジングルベル : ジェームズ・ロード・ピアポント 英語版作詞作曲者、日本語版替え歌フレーズ