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2021年02月13日 オノマトペって・・・

オノマトペってこうなんよ〜  第3回 『雪の降る音』って、聞こえる?

202102hakuba

『白馬にある小屋』                 2019年3月撮影

 オノマトペとは、フランス語源で『音を表す言葉』をいうものですが、日本語は世界でも、オノマトペが特に多い言語の一つと言われています。
「それは、なぜか?」
という種明かしを少しずつお話していきましょう。第2回は、日本人の脳がどう音を処理しているか、というお話でなかなか反響がありました。

今回は、『雪の降る音』についてです。有名な『ゆき』という童謡があります。

  ♪雪やこんこ あられやこんこ
    ふってはふってはずんずんつもる♪

 この冒頭部分、雪が降るときには「こんこ」などという音はしません。あられが降るときには、「コンコン」とトタンなんかにぶつかると音がすることがあるけれど、その後に続く「ずんずんつもる」とあることから、日本語のオノマトペは、『音』を表したものだけではなく、『状態』を表したものもあるということです。日本人にとっては当たり前が、欧米人にはありません。『状態』がオノマトペ音で表現される言葉となる。日本人独特の感性です。
 ところで、雪は、「こんこ」と降ってくるでしょうか。
 そこで、調べてみました。
 いろいろあるのですが、大野普さんの説によると、「第一部・第五章 語の形は変化する」の中に、例として童謡「雪」があります。その歌詞は「雪やこんこん」となっていて、その「こんこん」は、元は「来む来む」で「雪よ、もっと降れ降れ」という気持ちを表したものが、変化していったということなのです。それが「こんこ」になったのでしょうか。それはありうると感じました。
 日本語のオノマトペは、気持ちや感情を表したものから変化したものも、たくさんあります。「雪やこんこ」は、雪が大好きな人の気持ちなのか、と、ちょっと嬉しくなりました。

 さて、本当の『雪の降る音』ですが、雪の日は、静かです。
 雪は、しんしんと降る。降り積もると、音を吸収してしまうかのような静けさが訪れます。外があまりに静かなので、雪が降ってきたと感じる時さえあります。動物も植物も、雪が降ってくると沈黙するのです。それは、「待つ」という意味合いでの沈黙なのかもしれません。次の状況が訪れるまで、待つのです。

 さて、「雪が降り積もると、音を吸収してしまうかのような静けさ」と書きましたが、実際、調べてみると、本当に雪が音を吸収するということが分かりました。雪は、結晶構造を持っていますが、軽い雪の場合、体積の半分以上が空気をはらんでいます。この空気の部分が、音を吸収してしまいます。雪の結晶って、ふわふわして美しいですよね。手袋で受けると、1個の結晶は平面のものだけではなくて、何本もの結晶の枝が立体的に育ち、それが壊れてからみあったりして、その複雑さに時を忘れて見入ってしまいます。

 「しんしん」という音は、音がしないという音ですよね。音がしない音がある。というのは、オノマトペとしては、かなり、逆説的な表現ですよね。
 でも、その音を聞かせる絵本があります。私が一番好きな絵本です。
 神沢利子さんの作品で『ぽとんぽとんは なんのおと』という絵本です。読み聞かせでこそ楽しめる絵本です。
 「かあさん、なんだか しずかだね。
  どうして しーんと しずかなの?」
    すると、かあさんが こたえました。
 「ゆきが ふっているのでしょう。
  いつも こんな しずかな ひには、
  ゆきが しんしん つもるのよ。
  まだ まだ はるは とおいから、
  ぼうやは ゆっくり おやすみよ」
 雪なのに、温かい母ぐまの懐(ふところ)を感じる、温かい作品なのです。私の中の『小さい私』も「ママ!」と呼ぶのを感じます。

 そして、オノマトペの最高峰といえば、やはり、宮沢賢治の『雪渡り』ではないでしょうか。『宮沢賢治のオノマトペ集』という本がでているくらいですから、もう私が語るのはおこがましいのですが、その感性を、その音の美しさを感じ取ることのできる日本人で良かったとつくづく感じます。
  狐は可笑しそうに口を曲げて、キックキックトントンキックキックトントンと
 足ぶみをはじめてしっぽと頭を振ってしばらく考えていましたがやっと思いついた
 らしく、両手を振って調子をとりながら歌いはじめました。
  「凍(し)み雪しんこ、堅雪かんこ、野原のまんじゅうはポッポッポ。(以下略)」
      
なんだか読んでいるだけで、踊りだしたくなるような、楽しい楽しいオノマトペたちです。
 でもやっぱり、『雪の降る音』って、聞こえませんよね。 
                                                 入江 愛子 (S58理)

引用 参考 文献:
・『日本語をさかのぼる』 大野 晋 著 岩波書店 1979年 p.90~91
https://yousakana.jp/snow-silent/ ゆう さかな−you sakana 氏 HPより
 『雪の結晶は条件によっては80%も音を吸収するので、雪が降り積もると「シーン」と無音の世界になります』
・『ぽとんぽとんは なんのおと』神沢利子さく 平山英三え 福音館書店

・『雪渡り』 その1 小狐の紺三郎(こぎつねのこんざぶろう)
 『注文の多い料理店』 宮沢賢治 著 新潮文庫 新潮社 より
・『宮沢賢治のオノマトペ集』 栗原敦監修 杉田淳子編集 ちくま文庫