会員便り

2021年07月18日 オノマトペって・・・

「オノマトペってこうなんよ〜」 第5回  歩く音でわかる?

『燕岳、標高2700mを歩く』筆者撮影

 オノマトペとは、フランス語源で『音を表す言葉』をいうものですが、日本語は世界でも、オノマトペが特に多い言語の一つと言われています。
「それは、なぜか?」
少しずつお話していきましょう。

 さて、みなさんは、「トコトコ」というオノマトペで、どんな人がどんな感じで歩いているかわかりますか?
 「トコトコ歩く」というと、みなさんは、小さい子が歩く音と思いますか。私は、人じゃないものが歩く音かな、と思いました。木製のおもちゃの兵隊が歩く感じでしょうか。次のような歌にありますよね。
♬ やっとこやっとこくりだした おもちゃのマーチがラッタッタァ
  にんぎょうのへいたい せいぞろい おうまもわんわも ラッタッタァ ♬ (引用1)
「やっとこやっとこ」より「トコトコ」の方が、歩くのが上手でしたね。人差し指と中指で人の足のようにして歩く時、思わず口で「トコトコ」といいませんか。

 「歩く音」だけで、かなりのオノマトペがありまして、どんな体格の人が、どんな靴を履いて歩くのか、どんな雰囲気で歩いているのか、想像できます。
 赤ちゃんが歩き始める時、「よちよち歩く」といいます。ファーストシューズを思い出します。かわいい、おぼつかない、ほのぼのしたものを感じますね。
 スリッパで歩くと「パタパタ」というかんじでしょうか。音の中にせわしなさも感じられます。ちなみに「スリッパ」は日本発祥のもので、日本人の国民性も感じられる音ですね。
 また、洋画の夜の情景で靴音だけが響く場面、「カツーンカツーン」と聞こえます。ヨーロッパの石畳の道を、革靴で、大股で歩く時の音でしょうか。軍人が長靴のかかとを合わせる時の音です。なにか、硬く冷たいものを感じさせる音ですね。
 私の好きな昔話に、「くわずにょうぼう」がありますが、その中に(引用2)、
むかし、うんとよくばりのおとこが 〜略〜 「おらも にょうぼうが ほしいなあ。 よっく はたらいて めしを くわない にょうぼうが ほしいもんだ」といったそうだ。
〜略〜 だれかしらんが あとから ついてくるんだと。
 ぴた ぴた ぴた  ぴた ぴた ぴた
「だれだ おまえは?」 〜略〜 みれば うつくしい むすめなんだと。
この「ぴたぴたぴた」という音、裸足の足音なんだけど人間じゃないよね。という不気味さがひたひたと伝わってきます。しかも美しい娘です。欲張り男のすけべ心も透けて見えて、このお話の中でも引き込まれる場面の一つです。この食わず女房、欲張り男も食おうとしますから、はらはらしますね。
 昔話では、逃げる時の音が決まっていまして、「わらわら」といいます。
「うまかたやまんば」からですが、(引用3)やまんばが ぬうっと でてきて、〜略〜
うまかたは こわくなって、かたにのさかなを うしろへ ぶんなげ、うまを ひっぱって
わらわら にげていきました。
 この「わらわら」は、どうすればいい。どうすれば逃げ切れるのだ。とにかく逃げるぞ。という落ち着かない気持ちが表され、恐ろしくて腰が引けてしまっている感じもよくでているオノマトペだと思います。この山姥は、魚ばかりではなく、あっという間に馬一頭も食ってしまうので、馬方は生きた心地はしなかったでしょう。次のような、
うまかたは、もう、とっても にげられないと 〜略〜 きのうえへ わらわらと のぼっていきました。
というくだりもありますので、これは、足音ではなく心情を表したオノマトペです。そんな馬方ですが、このお話は最後に、意外などんでん返しになります。昔話はおもしろいですね。
 足音でもあり心情をも表しているオノマトペに「ごんごん」というのがあります。
やはり、昔話なのですが、「風の神と子ども」(引用4)の中に、
 子どもたちは、エンエンエンと泣いとった。〜略〜
「あそこの家へいって頼んでみたらば、何とかなるかもしれね」と、みんなで相談して、からだをくっつけあって、ごんごんと歩いていった。
 この「ごんごん」の中には、一つの希望にむかって、子どもたちが足並みをそろえて進んでいく気持ちの強さが表れています。不安からのがれるために頑張る気持ちと足が地面を踏みしめる音が「ごんごん」と聞こえてきそうですね。

 さあて、あなた自身の歩く音、どう表現しますか?
         スタスタスタ・・・    テクテクテク・・・

引用
1:「おもちゃのマーチ」作詞:海野厚 https://ja.wikipedia.org/wiki/おもちゃのマーチ

2:絵本「くわずにょうぼう」福音館書店 詳細:https://amzn.to/3ymNrUd

3:絵本「うまかたやまんば」福音館書店 詳細:https://amzn.to/3keUIS2 

4:「風の神とこども」東京こども図書館 詳細:https://amzn.to/3yTxNQc