会員便り

2021年08月18日 オノマトペって・・・

「オノマトペってこうなんよ〜」 第6回  あなたの名前はオノマトペ?

長野県小谷村のブナ 2018年8月撮影

オノマトペとは、フランス語源で『音を表す言葉』をいうものですが、日本語は世界でも、オノマトペが特に多い言語の一つと言われています。
「それは、なぜか?」
少しずつお話していきましょう。
 「あなたの名前は、実はオノマトペなのよ。」と親から言われた子どもは、どう反応を返したらいいでしょうか。でも、あえて名前をオノマトペにしている芸能人がいます。ご存知かしら?
 『きゃりーぱみゅぱみゅ』さんです。
 彼女の正式芸名はもっと長いのですが、この名前、先日友人からお誘いを受けたワークショップ『読書のアニマシオン研究会 5月例会』(引用1)で、その由来を聞きました。グループで新しいオノマトペ「かわいい」を作る、という課題があったのですが、お笑い芸能人たちの間で同じ課題「かわいい」で、できた言葉が、この『きゃりーぱみゅぱみゅ』だったそうです。彼女は、一般には使われていない造語ではありますが、名前を呼ばれるたびに「かわいい」と言われていることになります。なかなか、いいかもしれません。
 今回は、いきものの固有名詞になっているオノマトペがあるということに気づきました。
さて、どのいきものでしょう?
 夏の代表といえば、気が付きますよね。毎日のように、その声を聞いています。そうです。
『セミ』です。
 その鳴き声は、なんとそのまま和名になっています。図鑑に鳴き声が名前として載っているのです。表にしました。すべてセミ科なので、そこは省略し、他のセミたちも参考に。(引用2,3)

鳴き声  和名 学名(ラテン語)
ツクツクボウシ ツクツクボウシ属ツクツクボウシ  Meimuna opalifera
ジーチー ニイニイゼミ属ニイニイゼミ  Platypleura kaempferi
ミーンミンミンミンミーン ミンミンゼミ属ミンミンゼミ  Hyalessa maculaticollis
ジージージジジ アブラゼミ属アブラゼミ Graptopsaltria nigrofuscata
シャンシャンシャンシャン クマゼミ属クマゼミ Cryptotympana facialis
カナカナカナ ヒグラシ属ヒグラシ Tanna japonesis

 その鳴き声を特徴として聞き分けられる日本人ならではのセミの和名だと思います。ニイニイゼミについては、ちょっと?ですが。(引用4)セミの声といえば、ヒグラシはその鳴き声でカナカナとも呼ばれています。
 ちなみに、
  『閑さや岩にしみ入る蝉の声』
の、芭蕉が詠んだ蝉は、現在の暦の7月13日に山形県の立石寺で鳴くセミということで、ニイニイゼミだそうです。(引用5)

さて、「オノマトペって、こうなんよ〜」 第2回でも、紹介しましたが、(引用6)6歳ごろから9歳までを、日本語で育った人は、5母音に意味のある言葉を持つことからくる、外国人とは違った脳の使い方をします。言語(論理計算も含む)、母音、持続母音、虫や鳥の鳴き声、自然の音(雨や風の音、川の流れの音など)、ハミング、感情音(泣、笑、嘆、甘える等)などを左脳で処理、つまり、言語脳で処理するそうです。右脳で処理する音は、ハーモニーをもつピアノ、西洋楽器音、機械音、雑音だけです。
 これに対して、母音のみで構成される言葉を基本的にほぼ持たない欧米の言語、中国語や韓国語で育った人は、左脳で処理するのは、言語(論理計算も含む)や重要な子音を含む音節だけです。自然の音などのすべての環境音や雑音、鳴き声、母音や持続母音、感情音や音楽などを右脳の感覚脳で処理します。私達日本人にとって雑音が聞こえないようにするのと同じ処理を、外国人は虫の声に対しても行うため、虫の声が聞こえないそうです。彼らにとって、虫の声は、雑音、または、環境音と同じ扱いで、声ではなく音と表現します。外国人は、言語や計算を扱う論理(仕事、ビジネス)脳は左脳、感情音や自然環境音、音楽を処理する感覚(生活)脳が右脳と、言語や計算と感情を処理する脳の場所が違うそうです。
 タイの方が、「サムスンと組んで驚いたのは、韓国と日本の企業文化の違いである。個人的に親しいとか、付き合いが長いとかいった情緒的な発想は皆無。すべてがビジネスライクだ。〜略〜(交渉の時に、)中韓勢の意思決定の速さは魅力がある。」と書いておられました(引用7)が、脳の音の処理の仕方と企業文化は相関しているのではないかと感じました。日本人の意思決定の時間の長さは、感情と論理が切り離せない日本人の左脳の仕組みのせいではないかと思いました。
 角田先生によると、日本文化の特徴は、言語や計算と情緒性と自然が混然一体となって(有機的な心の世界を)左脳が処理、西洋楽器音と機械音、雑音という(無機的な物の世界を)右脳が処理しているところからくるといわれています。これに対して、外国人は、言語と計算は論理の左脳、情緒性や自然は感覚の右脳と、処理が切り離されています。このようにさまざまな音を処理する脳の場所の違いで、日本人と外国人の考え方の違いも説明できると思います。(引用8)
 この角田先生の実験によると、外国人にはコオロギの鳴く声は、聞こえていないこともあるそうです。彼らは、虫の声は音であって、声とは表現しません。虫の声が美しいと感じる、鳴き声をその虫の名前にするという発想があるのは、日本語脳の特徴かもしれません。
 さて、「カナカナカナ」と美しく鳴くカナカナの声を聞きながら、学名の「Tanna japonesis(タンナ ヤポネシス)」を、声に出して読んでみました。「タンナ ヤポネシス」のタンナとカナカナはちょっと似ていませんか?学名のアルファベットはよく写し間違いがあると聞きます。アルファベットのKは、ラテン語の学名にはあまり使われないので、KからTになってしまったかもしれません。
「カナカナさん、あなたは学名も、オノマトペ?」

引用文献
引用1:5月例会 「オノマトペでアニマシオン」
   https://www.animation-club.net/2021/05/10/4月例会-オノマトペでアニマシオン/
   (読書のアニマシオン研究会のツイッターも、一見の価値あり)
引用2:日本で夏によく見られるセミ5種(株)バイオーム
    https://biome.co.jp/biome_blog_074/#i-3 
引用3:生物の名前と分類   文責:横川浩治 
http://www.kanpira.com/iriomote_museum/scientific_name.htm#How_to_Read_Scientific_Names 
引用4:自然と共生する世界、セミの種類 関西電力
    https://www.kepco.co.jp/brand/for_kids/biodiversity/letsmake/cicada01.html
引用5:芭蕉の「蝉の声」はニイニイゼミ? ウェザーニュース     
    https://weathernews.jp/s/topics/201807/120335/ 
引用6: 続日本人の脳 その特殊性と普遍性 角田忠信著 (株)大修館書店
    https://amzn.to/2Ui5Xyt
引用7:日本経済新聞、私の履歴書㉘ 2021年7月29日版、
    サハ・グループ会長 プンヤシット・チョクワタナー筆 
引用8:日本語人の脳 理性・完成・情動、時間と大地の科学 角田忠信著 (株)言叢社
    https://amzn.to/3iJa9AQ