会員便り

2021年11月20日 オノマトペって・・・

「オノマトペってこうなんよ〜」 第7回 気候風土で変わる音?!

オノマトペとは、フランス語源で『音を表す言葉』をいうものですが、日本語は世界でも、オノマトペが特に多い言語の一つと言われています。
「それは、なぜか?」
お話ししていきましょう。

 今回は、英語のオノマトペと日本語のオノマトペを比較してみたいと思います。
 まずは、英語脳(引用1)の方による、リズミカルでステキなオノマトペ?!で描かれた絵本を紹介します。

「We’re going on a bear hunt」
Retold by Michael Rosen Illustrated by Helen Oxenbury (引用2)

 まず、25周年を記念した動画、マイケル・ローゼン自身の読み聞かせを体験してみましょう。この絵本の構成、白黒ページとカラーのページが交互に入っていて、カラーページには、英語のオノマトペのフレーズを3回繰り返しているのが、その動画で見られます。マイケルの人柄のわかる愉快なイギリス英語の語りです。是非、クリックしてお楽しみください。
https://youtube.com/watch?v=0gyI6ykDwds  (引用3)
字幕版 https://www.youtube.com/watch?v=Iou5LV9dRP0

これだけで、話が終わってもいいくらい満足できる楽しい動画だと思います。が、今回は、この英語の絵本からオノマトペの部分を抜き出して、日本語ではどうなるか、私のセンスで翻訳したオノマトペをつけて、比較してみます。家族がどこを歩いている音かを説明する原話の英文を入れておきます。

Oh-Oh! Grass! Long, wavy grass.  (草深い原っぱ)
Swishy swashy! Swishy swashy! Swishy swashy! カサカサカサ!ガサガサガサ!ザザザザザザ!
Oh-Oh! A river! A deep, cold river.   (深い川)
Splash splosh! Splash splosh! Splash splosh! ジャブジャブ!パシャパシャ!バシャバシャ!
Oh-Oh! Mud! Thick, oozy mud.     (泥だまり)
Squelch squerch! Squelch squerch! Squelch squerch!  ベタベタ!ネトネト!ネチョネチョズリ!
Oh-Oh! A forest! A big, dark forest.     (暗い森)
Stumble trip! Stumble trip! Stumble trip! 石ころゴロゴロ!木の根グニャグニャ!コツンイテッオット!
Oh-Oh! A snowstorm! A swirling, whirling snowstorm.  (猛吹雪)
Hoooo woooo! Hoooo woooo! Hoooo woooo! ヒューウー!ピューウー!ビューウー!
Oh-Oh! A cave! A narrow, gloomy cave.   (暗い洞窟)
Tiptoe! Tiptoe! Tiptoe!  ツツツツツツ!トトトトト!トコトコトコ!  
     

「八甲田のヤマブドウ(紅葉) 筆者撮影」

 最初は、原っぱを家族で通り抜ける時の音です。日本語のオノマトペと似ても似つかない音です。英語は、草の葉が身を切るような触感と長さを感じさせますよね。日本では草というより竹やぶだったりするので、「いけっちゃかさかさ、いぐなっちゃがさがさ」という昔話(引用4)にもある音がやぶこぎの音です。

 次の、川を渡る時の英語はしぶきが飛ぶ音ですけれど、AとOを入れ替えることでより角度変化を感じますね。私の日本語のオノマトペは、川に入る時、中ほどを乗り切る時、川から出る時を表現しています。英語の最初のS音を省けば、少し似ている音もあります。

 泥のところの英語、LとRとを入れ替えた音になっていて、日本人には難しい発音ですが、かなりネットリした泥、ズルっと滑るのに容易に足を引き抜けないような泥の感じがよくでています。英語は、ここでもS音から入ります。日本語とは、全く違う音ですね。

 森の中を歩く時の英語は、オノマトペではありません。直訳すると、つまずいたり、こけたり、みたいな意味です。暗いし、木の根などがあるから、という感じでしょうか。そういうことで、日本語の方も石と木の根を入れて、状況説明をしました。

 吹雪の音は、英語も日本語も似ていますね。その前の説明文に、これもS音から始まるswirlingという日本人には発音できない単語で、意味がぐるぐるなんですが、雰囲気は分かります。

 最後の洞窟の中を忍び足で歩くところは、英語は、オノマトペではありません。直訳すると、つま先、忍び足、そっと扱う、というような意味です。日本語では、「ぬき足、さし足、しのび足」という語句がありますね。ぴったりだけど、オノマトペではないので、この音を当ててみました。なんとなく、T音というところが似ていますね。

 この「We’re going on a bear hunt」の絵本では、人が移動する時の雑音に近い生活音をオノマトペにしています。英語脳でも生活音をオノマトペで表現できることの証明となりました。また、オノマトペでない言葉をオノマトペ風に使うというのは、英語脳のセンスだと思われます。

 この季節、森を散歩すると落ち葉があって、それを踏むと「カサコソ」と音がします。大きな葉っぱで乾燥していると「ガサッ」と音がします。けれども、小枝を踏んでも、ポキとかパキとか音がするというイメージはほとんどありません。

 グリム童話研究の第1人者である小澤俊夫先生が、
「ドイツの森では、落ち葉というより小枝を踏むとポキッと音がする。そういうかなり乾燥した気候の中、白雪姫が走りに走ったことを感じて語って欲しい。」と、言われたことがあります。確かにドイツの『黒い森』に行った時、小枝がポキパキ折れる音が耳に残りました。

 これら2つのことから、その土地の気候風土によって、同じことをしても異なる音がするということが分かります。落ち葉ではなく小枝の音とか、クマザサではなくコシのない長い葉の擦れる音とか、聞こえてくる音が変わるということです。

 また、英語のオノマトペにはS音が多いということを書きましたが、日本人には、欧米人が聞こえているS音が聞こえにくいことが多いと考えられます。母音言語の日本人には、単独の子音であるS音は、捉えにくいのかもしれません。それでも、自然の音や身の回りの音を雑音として無視できない日本語脳(引用1)にとっては、冒頭に述べたように、オノマトペの数が世界でも特に多い言語になると考えられます。

 気候風土の違いと聞き取れる音のちがいから、英語脳のマイケル・ローゼンのオノマトペが日本語とはかなり違うというのも理解できます。私がつけたオノマトペは、あくまで日本の気候における、日本人の感覚音だと感じていただければ幸いです。

入江愛子 (S58理)

引用
1:日本語人の脳  言叢社  角田忠信 著
2:絵本 「We’re going on a bear hunt」 by Margaret K. McElderry Books
Retold by Michael Rosen Illustrated by Helen Oxenbury  
3:Michael Rosen performs We're Going on a Bear Hunt by Walker Books
https://youtube.com/watch?v=0gyI6ykDwds
字幕版
We’re Going On a Bear Hunt | BOOK | Kids’ Poems and Stories With Michael Rosen
https://www.youtube.com/watch?v=Iou5LV9dRP0
4:絵本「やまなしもぎ」福音館書店 平野直(著) 太田大八(イラスト)